バッカスの踊る4番と爆発する世界の調和

2023年9月24日 サントリーホール 14:00〜

沖澤のどか 京都市交響楽団 常任指揮者就任披露演奏会

Beethoven Symphonie Nr.4 op.60

Connesson "Trilogie cosmique" pour orchstre

 

沖澤のどか京響常任指揮者就任披露コンサート,東京では1日のみ。
この1日にわざわざ京都市長までご臨席とは大変な力の入れようだ。
無料配布のプログラム冊子には京都市ふるさと納税のパンフレットが同梱されていた。


Beethoven 4番は偶数シンフォニーの中ではおとなしい2番,8番よりも,有名な6番よりも威勢のよい演奏が可能な曲ではある。勿論解釈のしようでは2番の延長線上にあるような古典的な演奏も出来る。

沖澤のどかのタクトはダイナミックだった。第1楽章からテンポはアップ気味でお祭り気分の,まるで御神輿を担いでいるかのような勢いがあった。早いパッセージに京響の弦は一糸乱れぬチームワークで,まるで往年の齊藤秀雄が桐朋の学生オケを指揮するような,身の毛もよだつ合いようだった。

そのズレないオーケストラが遺憾なく発揮されたのが第4楽章。早いテンポにも関わらず刻む刻むズレずに刻む。そしてお祭り騒ぎのフレージングはバッカスの踊りへと変容する。「バッカスの舞踏」とは本来第7交響曲第4楽章につけられたイメージだが,この爆発的な音楽を沖澤は4番で再現する。ただし,バッカスディオニソスの別名だが,沖澤のどかのバッカスの踊りは音色がアポロン的である。オーケストラの各パートの音色がハッキリと分かるような透明な音色なのである。あの分厚い読響でもそうだった。

スピード感と爆発が一糸乱れぬ音色で感じられる大変面白い体験だった。

 

一方日本初演の Connesson だが,通常の演奏順とは異なり,今回は成立年順に演奏された。つまり最初に Part III Supernova (1997), Part II Une lueur dans l'âge sombre (2005), 最後に Part I Aleph (2007) の順番である。

初めて聞いての感想は,コズミックということもあり,宇宙的なイメージは存分とあるが,弦の使い方が Hindemith ”Die Harmonie der Welt” を彷彿とさせてくれた。勿論 Hindemith にはこの曲のような「爆発感」はない。なにせ「調和」なのだから。

細かい弦の刻みと打楽器の鋭い合いの手,現代音楽だからといって無調ではない聞きやすさ。でもホールで立体的な音のコンプレックスを浴びると大層な音楽の被爆を受ける,そんなダイナミックな曲である。4番がバッカスの踊りならば Connesson は音楽のビッグバン,否音楽の水素爆弾のような破壊力が凄まじい。その複雑な各パートの爆弾投下命令を事もなげに沖澤のどかのタクトは指示していく。

 

この日サントリーホールには心地よい京の「響」が爆弾として何度も投下された。